いつもお世話になっているYさんから素敵な本を頂きました。
岐阜県内のある保健所で本当にあった猫と人との悲しいけれど、ぬくもりのある物語です。
☆捨てられたって、おなかいっぱい食べさせてあげたい。
最後まで、キレイなところで寝かせてあげたい。
そんな思いから仕事が終わってから毎日のように保健所に通うノリコさん。
寒い冬のある月曜日、とても大きくて、ちょっと怖い顔の猫と出会いました。
ノリコさんは、顔がでかいその猫を「でかお」と呼ぶことにしました。
マイペースでとても穏やかなでかお。
ノリコさんは、でかおをうちに連れて帰りたいと思いましたが、家にはもうたくさんの猫たちがいます。
毎週水曜日が施設の処分日です。悩んだすえ、ノリコさんはひとりで帰る事にしましたが、その夜は眠れませんでした。
「飼い主に捨てられてしまった、でかお。
あんなにおとなしくていい子なのに、どうして。
かわいそうな、でかお。
でも、みんなを連れて帰ることは、わたしにはできないの。
今度生まれ変わったら、どうかステキな人に出会えますように。
ごめんね、でかお。ごめん。」
ノリコさんは、心の中で、何度も何度もあやまりました。
水曜日…ノリコさんが施設に行くと、でかおがいました。
その週はたまたま施設の都合で処分は行われなかったのです。
だけど、来週の水曜日になればきっと…。
ノリコさんはなぜか、でかおのことが気になってしかたありません。
次の日、ノリコさんは仕事が遅くなって、でかおに会いに行くことができませんでしたが、その夜になって、ノリコさんはでかおを引き取る決心をしました。
金曜日。
ノリコさんはでかおを迎えに行きました。
施設に着くと、でかおの姿がありません。
ノリコさんが職員さんにたずねると「あの猫なら、さっき処分したよ」
「そんな!来週の水曜日までは、大丈夫だと思っていたのに」
「だって、今週のうちに済ませておかないと、また来週、犬や猫がたくさん持ち込まれたら困るからね」
職員さんは、部屋のすみにある冷凍庫を指差しました。
ノリコさんが冷凍庫の扉をあけると、そこには黒い大きなビニール袋がありました。
「わたしがもっと早く決めていれば、もっと早くに迎えに来ていたら…」
次から次へと涙がこぼれ落ちました。
そのとき、黒いビニール袋がかすかに動きました。
でかおを連れて帰ることを職員さんに頼みこむノリコさんですが、注射してから一時間以上も冷凍庫に入っていたから、もう助からない。あきらめなさいと二本目の注射が打たれました。
「早く楽にさせてあげたほうがいいんだ。仕方ないんだよ。
捨てられた動物は、こうするしか」職員さんは、やるせない表情を浮かべました。
しかし、その後もビニール袋はほんのわずかに動きます。
ノリコさんはたまらずビニール袋を破り、でかおを抱き上げました。
「注射を二本も打たれたんだ。連れて帰っても、長くはもたないよ」と言う職員さんの言葉を振り切って、ノリコさんはでかおを連れ出しました。
たとえ駄目だとしても、あたたかいところで眠らせてあげたい。
最後くらい、人のぬくもりを感じさせてあげたい。
一度引き取ると決めたんだから。
ノリコさんは、でかおの最後を見届ける覚悟で、連れて帰ると決めたのでした。
ノリコさんは、でかおをあたため、ごはんをあげて、優しい言葉で語りかけ一緒に眠りました。
ノリコさんが目を覚ますと目の前にでかおの大きな顔が…でかおを見守り続けたノリコさん。
1ヶ月がすぎ、半年がすぎ、あれから二年が立ちました。
どうしてでかおが助かったのか、獣医さんに聞いても首をかしげるばかりですが、でかおはノリコさんの家で今も元気に暮らしています。
『明日もいっしょにおきようね』
文:穴澤 賢
絵:竹脇 麻衣