ドッグレスキューしおんの会🐕   

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『いのちをいただく』

『いのちをいただく
〜みいちゃんがお肉になる日』

という絵本を紹介いたします


このお話は熊本県生まれの坂本さん(食肉解体作業員)が実際に体験した物語です


坂本さんは小学三年生のしのぶくんという男の子がいます。

ある日、坂本さんがしのぶくんの授業参観にいくことになりました。

「いろんな仕事」という授業で
先生が子供たちにお父さん、お母さんの仕事をたずねると

「肉屋です。ふつうの肉屋です」
としのぶくんは答え

坂本さんは「そうかぁ」とつぶやきました。

家に帰ってきたしのぶくんが
「お父さんが仕事ばせんと、みんなが肉ば食べれんとやね」と言いました。

しのぶくんは学校の帰りぎわ
担任の先生に呼びとめられて
「坂本、なんでお父さんの仕事ば、
ふつうの肉屋てゆうたとや?」

「ばってん、カッコわるかもん。
一回、みたことあるばってん、
血のいっぱいついてから、カッコわるかもん」

「坂本、おまえのお父さんが仕事ばせんと、
先生も、坂本も、校長先生も、会社の社長さんも肉ば食べれんとぞ。
すごか仕事ぞ」と先生が言いました。

「お父さんの仕事はすごかかとやね」

その言葉を聞いて、坂本さんはもう少し、仕事を続けようかなと思いました。

ある日、一台のトラックが肉になる予定の牛を運んできました。

助手席から十歳ぐらいの女の子が飛び降りて
牛に話しかけている声が聞こえてきました。

「みいちゃん、ごめんねぇ。
みいちゃん、ごめんねぇ。
みいちゃんが肉にならんとお正月がこんて、
じいちゃんのいわすけん。
みいちゃんば売らんとみんながくらせんけん。
みいちゃん、ごめんねぇ」

そういいながら、一生懸命に牛の腹をさすっていました。

坂本さんは「見なきゃよかった」と思い
明日の仕事を休むことにしました。

坂本さんは家に帰り
みいちゃんと女の子のことをしのぶくんに話しました。

その夜、坂本さんといっしょにお風呂に入ったしのぶくんが
「お父さん、やっぱり、お父さんがしてやったほうがよかよ。
心のなか人がしたら、牛苦しむけん。
お父さんがしてやんなっせ」

坂本さんの決心は変わりませんでしたが、
次の朝、学校に出かけるしのぶくんが

「お父さん、きょうはいかないけんよ!
わかったね!」
と玄関からさけびました。

坂本さんは「おう、わかった」とこたえてしまい
しぶい顔をしながら、仕事へと出かけました。

会社に着き牛舎に入ると、
みいちゃんは、他の牛がするように角をさげて、
坂本さんを威嚇するようなポーズをとりました。

坂本さんがそっと手をだすと、
最初は威嚇していたみいちゃんも、
しだいに坂本さんの手をくんくんかぐようになりました。

「みいちゃん、ごめんよう。
みいちゃんが肉にならんと、みんながこまるけん。ごめんよう」
というと、みいちゃんは、坂本さんに首をこすりつけてきました。

それから、坂本さんは、女の子がしていたように腹をさすりながら

「みいちゃん、じっとしとけよ。うごいたら急所をはずすけん、
そしたら、よけい苦しかけん、じっとしとけよ。じっとしとけよ」
と言いきかせました。

みいちゃんのいのちを解く、
そのときがきました。

坂本さんが、
「じっとしとけよ、みいちゃん、じっとしとけよ」
というと、みいちゃんは、ちょっとも動きませんでした。

そのとき、みいちゃんの大きな目から、
涙がこぼれおちてきました。

坂本さんは、牛が泣くのをはじめてみました。

そして、坂本さんが、ピストルのような道具を頭にあてると、
みいちゃんはくずれるように倒れ、すこしも動くことはありませんでした。

後日、おじいちゃんが食肉センターにやってきて、

「坂本さん、ありがとうございました。
きのう、あの肉ば少しもらってみんなで食べました。
孫は泣いて食べませんでしたが

『みいちゃんのおかげで、みんながくらせるとぞ。食べてやれ。
みいちゃんに、ありがとうといって食べてやらな、
みいちゃんがかわいそかろ?食べてやんなっせ』
っていうたら、

孫は泣きながら
『みいちゃん、いただきます』
『おいしかぁ、おいしかぁ』ていうて、食べました。
ありがとうございました」

坂本さんは、もうすこし
この仕事をつづけようとおもいました。


※作品中の「解く」という言葉は、牛や豚を殺すことを意味し、
食肉解体業に携わっている皆さんが実際に使っている言葉です


原案 坂本義喜

作 内田美智子

魚戸おさむ