『桜の花が咲いたな。
おじさんの家に来た時は雪があったけど、あれから3ヶ月が過ぎたのか……。
つながれたままの15年だったけど、隣のおばさんが可愛がってくれた。
なぜ飼い主はわたしを保健所に連れて行ったのだろう。年をとったから……?
保健所がどういうところか、飼い主は知っていたのだろうか?
向かえに来るのを待ったけど、2日、3日、4日立っても来なかった。
わたしの他にも4匹の犬がいた。わたしたちは言葉を発しなくても心で会話ができる。
わたしの隣にいたリンは、吠えるのがうるさいと連れて来られた。
8回生んだリンの赤ちゃんはそのたびに捨てられ、リンは声がかれるまで呼び続けたそうだ。
3才の兄弟サムとエディの飼い主は酒を飲むと、動いただけで2匹を怒鳴りつけた。
兄弟はすっかり怯えてしまい、少しの音でビクヒクして泣きそうな顔をしていた。
キャバリアのレディは、ペットショップにいたそうだ。
次々と子どもを生ませられ、まだ7才なのにレディの体はボロボロ。
栄養不足で体の毛は抜け落ち、長い耳のふちはギザギザに裂けていた。
本当なら美しいはずのレディ……。
保健所はいれる日数が決まっている。だいたい4日くらいいて、新しい飼い主が決まらなければ処分。
処分というと聞こえはいいが、殺されることだ。
事実を知った時、わたしは死を覚悟した。わたしのような老犬を誰も欲しがらないだろうから……。
あとどれくらい生きられるか分からないけど、生きれるだけ生きたいと思った。
わたしの命もあと1日という日、知らないお姉さんがわたしのそばに来て言った。
「もう大丈夫だよ。家に行こうね。」
(後で分かったが、お姉さんはわたしたちのような犬を救うボランティアをしている)
長い時間、わたしは車に揺られ知らない家に着いた。
大きな小屋に入れられた後、おじさんがすぐにごはんと水を持ってきてくれた。
「チビタというそうです。お世話をかけますがよろしくお願いします。」
「ん、わかった。」
その夜、おじさんが用意してくれた毛布の上で、わたしは久しぶりにぐっすり眠った。
次の日からおじさんが毎日散歩をしてくれた。
雪が凍って滑るのと、足が弱っていたせいで最初の頃はふらついたが、散歩は楽しい!
色々な匂いをかいで歩くのは、最高に幸せな気分だ。
毎日、おじさんと散歩をしているうちに足は丈夫になり、わたしはすっかり元気になった。
お姉さんが話していたけど、わたしが助かったのはおじさんのおかげだ。
老犬の飼い主を見つけるのはとても難しく、お姉さんはわたしの保護をずいぶん悩んだそうだ。
そんな時、おじさんが自分が元気なうちは面倒みてやると言ってくれたそうだ。
あぁ―、桜の匂いを嗅いでいると夢を見そうだ。
保健所にいたわたしの仲間たちが、野原で自由に駆け回っている夢を……。』
以前コンテストに応募し入選した作品です
1月17日 代表*福澤
写真…保健所から保護し、今は幸せなアミン